なめらかな面に細密に施された紋様。植田佳奈の陶は、膨大な時間を込め人の手でつくり出されながら、一方で人の手の及ばない自然の原始的な質感を湛え、見る者の目を細部に誘う。「人工と自然の間」に思考を置く作家との対話で、galerie aが引き出したのは、フォルムの新しい展開。面や質量の変化も取り込みそこに描き出された質の蓄積を、ぜひご覧ください。
植田佳奈を特徴づける象嵌(ぞうがん)の手法。成形の段階で微細な彫りを刻み、素焼き後に色を塗り拭き取ると、溝に色が残り、柄として浮かび上がる。象嵌が、装飾ではなく、質感の表れとして静かに存在するとき、見る側の記憶のどこかと触れ合って、自然の風景や記憶の奥と呼応するような感覚が導き出される。
作家は、象嵌による質感の創出だけでなく、その意味を解き明かすような試みを続けている。物質をどう捉えるか。重さ、表情、内側の密度。焼き物は自然のように見えながら自然ではない人工物。その事実を前に、植田は常に考え、手を動かして表現する。今展で植田は、手跡の緻密さ以上にモダンな側面を引き出したいというgalerie aの投げかけに、また少し変化する。
陶芸家・植田佳奈さんの存在は、主にSNSや展示を通じて、また作品を取り扱っている店頭などで都度拝見はしているし、一応、作品も実際に購入し、以前から所有もしている。ただ、残念ながらまだ面識は無い。そんな状態であるにも関わらず、普段から大変お世話になり、また、同じバイヤー・キュレーターとしての活動に刺激を受けているgalerie aのディレクターである秋吉さんより、今回の植田さんによる展示「Draw the Edge」について、寄稿文の執筆を依頼いただいた際、ついつい、いつもの調子で快諾してしまった。
そして今、ご本人にとっては大変失礼に当たるだろう、と強い後悔の念を抱きつつ、とは言え、秋吉さんも私もバイヤーやキュレーターという仕事柄、作家本人と十分に対話する機会に恵まれず、ただ、作品そのものと対峙して言葉を発しなければならない場面も多い。そんなことを自分自身に言い聞かせながら、今回の展示リリース文を読み込み、インタビュー映像を何度か見、私物の作品を眺めながら、何とか自らを奮い立たせ、この文章を書き進めようとしている。読まれる方々には、まずその点をお許しいただきたいと思う。
「植田佳奈さんの作品は、まるで自然物のように見える。」
無理を承知で一言に表すのであれば、この評がインターネット上のメディアなどで散見される彼女の作品についての主な意見や感想、見立てであるように思える。確かに作品を一見すると、最初はそのような印象を覚えることだろう。しかし、私にはこれらの作品がより一層「人工物」であるという事実を、どうしても強く意識をしてしまう。何よりその膨大な手間と時間がかけられた、象嵌の手業の痕跡によって。
ろくろで土を成形していると、半球体から下で留めた状態は道具である器(食器)、そこからさらに上へ、球体へと近づくにつれ壺(花器)となる。その半球の境界線を越えた瞬間に、また作品性も帯びてくると、とある陶芸家から以前話を聞いたことがある。もう一点、植田さんの代表作とも言える花器の首や小さな口、私にとっては、それらの存在が却って小さく、繊細であるが故に、また再び「人工物」の作品であることを思い起こさせるのだ。
植田さんのインタビュー映像での言葉で、とても興味深い一節があった。要約すると、淡々と続く作業が無意識へと導き、さらに人間の身体性が純粋に伴ってくことで、結果として自身の作品が、自然の造形物の質感に近づいていくのかもしれない、と。その点において彼女の作品は、確かに「人工の自然の間(あわい)」でたゆまっているようにも思える。
人が物に触れているとき、一方で物も人に触れている、という話を、近頃、何度か別の場面で聞く機会があった。そんな観点から考えてみると、植田さんの作品には、つい鑑賞する側が触ってみたいという想いが募るのと同時に、作品もまた我々に対して触って欲しい、という表情をしながら、静かに佇んているようにも見えてくる。彼女が道具を通して表面に刻んだ無数の彫りが、製作中に数え切れない程、作品と手を触れ合っているという事実を示しているかのように。
今回の galerie aでの展示「Draw the Edge」において秋吉さんが意図したのは、テキストにおいてはフォルムや面、質量の変化と明記されていた。ただ、彼自身が映像の中でも述べていたように、存外、この「触れる」という行為への促しが、その奥にある彼の意図であるかのようにも感じている。そして、私もまだ見ぬ作家本人との出会いと、また新しく変化した彼女の作品に早く触れてみたい、と願っている。
株式会社メソッド
バイヤー 山田 遊
植田佳奈1992年神奈川県生まれ。
2015年、武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科陶磁専攻卒業。
有機的なフォルム、象嵌による細密な彫りの紋様が特徴的で、
自然を想起させると評価も高い。
植田のアトリエに佇んでいた、
制作過程で生じた端材、実験のかけら、傷が入ったもの。
これらは作品として発表される事はありませんが、
作家としての取り組みや姿勢を感じとることができるものばかり。
そのようなピースを当ギャラリーディレクターが、ひとうひとつ自由に組み合わせた
one of a kindコレクションです。
Gallery Info
- 下記日程で作品をご覧いただけます。ご来場をお待ちしております。
- Date
- 2023.11.10 FRI - 11.19 SUN12:00 - 18:00
- Address
- 東京都港区南青山6-9-2
日興兒玉パレス 104 - Tel
- 03 6450 6725
Credit
- Gallery Direction
- Nobuhiko Akiyoshi
- Contributors
-
Yusuke Shiki
Tomoyuki Washiyama
Roca Onishi
Masakado Nishibayashi
Kei Gunji
Ahraun Chambliss
Yuko Mori
Shoko Akiyoshi