galerie aでの初個展から1年、再び、⾳楽家で詩人の山崎円城が書き付けるtaggingの作品展を開きます。 ハイフンで継ぐように、表現の幅を広げながら詩を唄い、語り、書き、絶えず紡ぎ出していく山崎。

「⽣活に詩を置く」から始まった、⼭崎円城とgalerie aのセッション。 ⼭崎円城は、⾳楽を始めた10代の頃から、壁に言葉を書きつけるtaggingを表現の一つとしてきました。
山崎と知り合ったgalerie aの秋吉伸彦は、山崎の紡ぐ詩を⼿元に置き「詩を⽇常の中に置く」装置としてのアートを求め、山崎に個展を依頼しました。 夏に向かう中、アトリエとして与えられた部屋で制作を続ける日々。今年もまた、⼭崎と秋吉のセッション2が始まります。
即興でありながら、精緻に連なる文字の羅列列。⼤小を変えながら延々と続く筆致。ペンとスプレーで山崎円城が書くグルーヴは、独特のリズムを伝えてきます。 今回は、秋吉が集めてきたガラス器数十点に、⼭崎が取り組みました。光を通すガラスを埋めつくす文字。その様々なかたちを、展示します。

ストリートにみられるグラフィティの一種であるタギング(tagging)。自らを表す記号を雑踏の中に一瞬で残し走り去っていくものだ。山崎円城はこの手法で長年にわたり作品を発表してきた。
ただ緻密にことばが記された山崎の作品は、タギングという手法は用いながらも、ストリートカルチャーにみられる一瞬の燃焼的なパッションで表現された走り書きのようなものではなく、 より持続的で構成的なものに貫かれている。その作品からは、生来の才能とミュージシャンとしての長年の経験が培った対象の認知能力やグルーヴ感、そしてことばを掴みとり定着させたいという詩人としての意思を感じ取ることが出来る。

“hyphenated”と題された本展は、鏡などの古物や家具に山崎のことばを独特のやり方でタギングした昨年の展示に続くものだ。
昨年の展示を見て、僕自身が特に興味をひかれた作品は鏡を媒体としたものだった。
その作品で鏡の表面に書かれたことばは、透明なガラスを透過し普段は意識しないガラスの底の反射面に映り、表面と底面でレイヤーを構成していた。
古い鏡ほど、使われているガラスは厚いという。つまり古い鏡ほど、その表面に書かれたことばと底面に映ることばには物理的な距離が生じる。galerie aの主宰 秋吉伸彦が蒐集したビンテージの鏡の底面で反射した山崎のことばは、遠い山びこのように過去からこちらを呼びかけるように戻ってきて現在のことばと二重写しとなるような印象を僕はもった。

この象徴的な作品を含んだ昨年の展示からは、およそ詩人という者は、映り込み跳ね返ってくる自らのイメージと過去のことばに対峙し、時には戸惑いさえ感じながらも、未来に向かってことばを紡ぎ続けるしかないのだという「詩人の業」を見た気がした。

鏡は神話と詩を、ひいてはことばを、古来この世界に呼び込む象徴的な装置だった。
とはいえ、昨年の僕は自分自身が感じた呪術的な雰囲気に少し飲み込まれすぎてしまったのかもしれないとも感じている。もっと作品をシンプルに、クリアにみるべきだったかもしれない。
今回、山崎が取組んだ媒体は主宰 秋吉伸彦が蒐集した数々のガラスである。つまり、鏡から反射面を取り払った素材である。昨年は、反射しこちら側に戻ってきて、作品に呪術的雰囲気を与えもしていた詩人の像も、ことばもそこを通り抜けてしまう可能性をもつ素材である。本展では隠しようもなく、文字通り白日のもとでこれまで作家が培ってきたものがそのまま試されると言えるだろう。

手法はさまざまだが、ガラスの表面を精緻な文様で彩ろうとするのはガラス工芸の世界では長い伝統を持つ。そのこともあり、昨年の展示と比較して本展の作品をより工芸的なものとみる考えも、一瞬僕の頭をよぎった。
しかし手法の精緻さは確かにあっても、山崎の作品はことばを「文様」の一種として扱うようなものでは決してなく、ましてや精密に書く技術やバランス感覚を見せたいのでもなくて、その点で決して工芸ではないといっていい。
山崎はことばにこだわっている。同じことばは延々と書き連ねられていくうちに、独特のうねりのような力を加速させ、その判読性は崩れていく。通常ならば連続した文字群はいつしか一種の記号となって文様となってしまうのに、山崎の連続しうねるように書き綴られたことばはどうして文様にならずに、ことばのままなのだろう。山崎が筆圧とともに込めた、ことばの力というものを直観して僕は少したじろいでしまう。




       

もしかしたら先に書いた、山崎はことばにこだわっている、という言い方は少し不正確かもしれない。
山崎は判読性や、あるいは意味さえも超えた、ことばの力を信じているのだ。

“hyphenated”と題された本展は前回と緩やかにハイフンで結ばれながら、ガラスという透明な素材にフィーチャーしたことで、昨年の展示以上に山崎円城のことばの力をよりクリアな形で提示する挑戦的な展示になるだろう。

そしてギャラリーを訪れ作品を観る者にとっては、うねりを続けその速度を増していく山崎円城のことばの力に文字通り向き合い、そのありさまを観る絶好の機会になる。
鏡のような象徴的な装置を用いずになお、光を通し明瞭に見通せるガラス器体の上でも失われない「ことばの力」を観る。この点で、本展は昨年よりも呪術的でさえあると言えるかもしれない。

2023.8.2
hyphenated 個展前に寄せて

         
郡司 圭
Kei Gunji
Instagram

大学・大学院で政治学および法律学を学んだのち、現在はデンマークの家具ブランドに勤めてセールスとヴィジュアルマーチャンダイジングを担当する。精力的に様々なアートに触れ、勤務するブランドでアートや現代工芸を家具と合わせてインテリアとして提案するイベントを仕掛けながら、インスタグラムで論評の投稿を重ねる。その視点の独自性と、気持ちの惹かれる対象への熱量は凄まじい。galerie aでは、ギャラリーの外側にいる彼の論評を内側に引き込むことで、私たちの紹介するアーティストたちを多角的に見つめる視点を持ちたいと考えている。

山崎 円城 詩人・音楽家。1990年ごろより、
グラフィティーやタギングの手法で公共の壁を使って
言葉や詩を発表し始める。
ほどなくして音楽活動も本格化し、
90年代から言葉のイベント「BOOKWORM」を主宰。
2013年、等価交換での詩集リリースを始める。
近年はタギングから生まれたコラボレーションも多く、
店舗の壁にも作品を残している。

山崎氏に作品制作を行うスペースを明け渡した。いわゆるレジデンスというやつだが、僕にとっても初めての経験だった。山崎氏に提案してみると「俺、ここでやります。ここでしか出来ない気がする。」あ、面白い。ここで描いてもらおう。
ふらりとやってきては描く日々が続く。締め切りも決めず、彼のペースにすべてお任せした。
山崎氏はこのスペースをSoft jail(ゆるい監獄)と呼んだ。そこから滲み出る気配を察知し、夜な夜な彼の創作仲間たちが集う。

俺にしかできない
音楽をやってる感じ

音楽作るのも、詩を書くのも、タギングを壁にやるのも、物に描くのも、
結局は“言葉”で、真ん中にある核は変わらないから。

           

「詩を日常の中に置く」装置としてのアートを求め、集めてきたガラス古物を山崎に託しました。

  •              
    Printed on paper
    SIZE A1 (594×841mm)
    オフセット印刷
                     2,500 yen送料込み edition 200
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    SIZE A1 (594×841mm)
    オフセット印刷
     2,500 yen送料込み edition 200

Gallery Info

下記日程で作品をご覧いただけます。ご来場をお待ちしております。
     
Date
2023.8.3 THU - 8.13 SUN12:00 - 18:00
Address
東京都港区南青山6-9-2
日興兒玉パレス 104
Tel
03 6450 6725
           

Credit

Gallery Direction
Nobuhiko Akiyoshi
Contributors
      Yusuke Shiki
Tomoyuki Washiyama
  Roca Onishi
Masakado Nishibayashi
Kei Gunji
Ahraun Chambliss
Yuko Mori
Shoko Akiyoshi