一対。単体では自立しない、不均一な個が二つ。互いの存在を支え合い、成立する表現。 galerie a では、木工家 浦上陽介の個展「side by side」を開催いたします。 二つのオブジェクトから構成される作品は、対になる2点の置き方を変えることで趣を変化させていきます。 互いの距離や配置で関係性を変える一対。ぜひその終わらない遊びをご自身の手で、お確かめください。

galerie a で3度目となる浦上陽介との対話は、昨年の展示「FACE TO FACE」で生まれた一対の作品「fiore」から始まりました。 積む、上下を入れ替える、そばに置く。置き方によって変化する関係性の可能性を発展させ、 「自立しない個体」が支え合うことで自立する、一対のオブジェクト「side by side」を今展のテーマとしました。 作品の完成は、つくり手の手を離れた時でも、誰かの手元に届いた時でもなく、その都度、誰かの手で動かされ置かれるたびに新しく完成していきます。 それぞれの距離や置き方に正答はなし。使い手が作品に触れ、その都度、自身の心地よい重なりを生み出せるように。

色彩や質感のコントラスト、水滴や陰影といった自然に存在する有機的なフォルムの抽出は、「自立しないかたち」を追求した先の、 必然的なかたちでもありました。スケッチから始まることが多いという浦上の造形表現。今展では、粘土での試作を繰り 返し、新しい造形による風景が広がりました。
自立しない個が寄り添い、支え合う。私たちの社会にも通底する響きを持つテーマによるオブジェクトの作品群となります。

終わらない遊び

浦上陽介のgalerie aにおける3回目の個展にあたる本展には、2つのオブジェクトがその存在を支え合うというイメージで作られたフォルムや色、仕上げ、佇まいの異なる「一対でひとつ」という作品が並んでいる。
ひとは失われた半身を補い完全体となるために相手を求め一対になろうとするというアンドロギュノスの神話で象徴的に示されているように、欠けているものを補完しようとする摂理はひとや社会を動かしてきた大きな動因のひとつであることは間違いがなく、「一対でひとつ」は古来アートのテーマとして多くみられるものだ。

しかし本展で表現しようとする「一対でひとつ」という作品のテーマであり制約は、不足した2つのものが結びついて完成するという補完の摂理を示すものではなく、使い手が作品に触れ心地よい重なりや距離感を見出していく行為、「誰かの手で動かされるたびに作品が完成する」という「終わらない遊び」を日常に取り戻すきっかけを与えるためにある。
その点で、浦上が何度も試作を繰り返し作り上げた対となる2つのオブジェクトは、どちらも触れてみたい・動かしてみたい=遊んでみたいと思わせる自律した個の魅力を秘めている。

対になった個性的で自律した2つのオブジェクトは、アンドロギュノスのように「ひとりではいられないから、ふたりになる」という受動的な補完関係ではなく、その時々の自由な感性で「ひとりでもいられるからこそ、ふたりになる」という意思的な発展関係で結ばれている。

文化の中から遊びが生まれたのではなく遊びの中から文化が生まれたのだとして、人間は「ホモ・ファーベル(作る人)」よりも「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)」なのだと「遊び」の本質的な意義を歴史家ヨハン・ホイジンガはかつて述べたが、それも加味して本展で示されていることを大きくとらえれば、それはアートという媒体を用いて「終わらない遊び」をすることで日常の中に人間性を取り戻すという自由で意思的な行為の重要性ということになるだろう。

そしてside by sideと名付けられた本展は、galerie a主宰の秋吉伸彦と作者の浦上陽介という2つの自律した個性が、対話という共同作業を通して生まれる創作の新しい地平をともに並んで見ようとした成果であり、作品をめぐる対話・創作・発表を通して未来へとつながる「一歩先の表現」を新たに作り出していこうとする、この場所らしい「終わらない遊び」を象徴しているもののように思う。

浦上陽介 個展 side by sideに寄せて
郡司 圭

郡司 圭
Kei Gunji
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大学・大学院で政治学および法律学を学んだのち、現在はデンマークの家具ブランドに勤めてセールスとヴィジュアルマーチャンダイジングを担当する。精力的に様々なアートに触れ、勤務するブランドでアートや現代工芸を家具と合わせてインテリアとして提案するイベントを仕掛けながら、インスタグラムで論評の投稿を重ねる。その視点の独自性と、気持ちの惹かれる対象への熱量は凄まじい。galerie aでは、ギャラリーの外側にいる彼の論評を内側に引き込むことで、私たちの紹介するアーティストたちを多角的に見つめる視点を持ちたいと考えている。

                   

浦上 陽介1985年生まれ。長崎県五島列島出身。
桑沢デザイン研究所でプロダクトデザインを学ぶ。
在学中から都内の家具工房で約10年間の修行を積む。
2016年、広葉樹林の近くでの暮らしを求めて東北をめぐり、
立ち寄った蔵王町遠刈田で、
こけし工人や地域の人々に触れて移住を決める。
木と向き合いながら、漆や箔を施した木工作品を作り、
日本各地で発表を続けている。

「二畳で仕事できるよ、お前の腕なら」
という言葉と共に、この地で出会ったこけし工人に、
作業場を与えられた浦上。
暮らしと製作を行う拠点である遠刈田は、
広葉樹林の近くでの暮らしを求めて東北をめぐり、
立ち寄った宮城県刈田郡蔵王町にある温泉街。
標高330メートルの高原にあり、
信仰登山の基地や湯治場として知らてきました。
今も共同浴場を中心に広がる旅館や、
こけし工人の家並みが続きます。

「自立しない個体」が支え合うことで自立する、一対のオブジェクト。
個体と個体の間が醸しだす佇まい。

                 
         
           
           
 
     
   

Opening Gallery

下記日程で作品をご覧いただけます。ご来場をお待ちしております。
     
Open gallery
2023.12.8Fri - 12.17 Sun12:00 - 18:00
Adress
東京都港区南青山6-9-2
日興兒玉パレス 104
Tel
03 6450 6725

Credit

Gallery Direction
Nobuhiko Akiyoshi
Contributors
Yusuke Shiki
Tomoyuki Washiyama
Roca Onishi
Masakado Nishibayashi
Kei Gunji
Ahraun Chambliss
Yuko Mori
Shoko Akiyoshi